東海林さだお、「いま、貧乏が贅沢だ」
ノーファイトです。
私の愛読しているエッセイの一つは、漫画家の東海林さだお氏の書かれたものです。
ほとんどすべて読んだと自負しています。「丸かじりシリーズ」は何度読んでも面白いです。
数日前、本棚から「丸かじりシリーズ」とは違う一冊取り出して、読み直しておりました。旅行記ばかりを再録した『ショージ君の旅行鞄』です。900ページもある分厚い文庫本です(新刊としては売られてないようです)。
このエッセイ集のなかに、「現代貧乏旅行」という一文があります。書き出しはこうです。
いま、貧乏が贅沢だ。
ひと昔前までは、貧乏はそこら中にあった。
日本中にあった。
いま、貧乏は貴重である。
体験しようと思ってもなかなかできるものではない。
なかなか興味深い書き出しです。そして、その後、いかに貧乏旅行をするのが大変だったかを、面白おかしく書き綴っています。
このエッセイが最初に掲載されたエッセイ集『ニッポン清貧旅行』(こちらも絶版)が初めて世に出たのは、1997年のようです。
そこに納められているこのエッセイが出たのは、それよりも少し前だと思います。1996年か、1995年なのかなと思います。正確な年はともかくとして、バブル経済がはじけて5、6年は経っているのに、「いま、貧乏は貴重である」と書いているわけです。
その頃の日本の一人あたりGDPはかなり高かった(国際順位は一桁だった)と記憶していますが、今となっては、20世紀末の日本、まだこんなに豊かだったのだと思い、衝撃を受けました。
現在、貧乏はそこら中にあります。隔世の感があります。『上級国民・下級国民』という本も最近読みましたが、とても説得されました。
ただ不思議なことに、私はこのエッセイを読んで、「日本はどうなっているんだ!」という類いの憤りは感じませんでした。理由はよくわかりません。たぶん、ちゃんと考えたほうがいいのかなとは思っています。
それはそれとして、『ショージ君の旅行鞄』、旅行のお供には重くて嵩張りますが、読んで楽しいエッセイ集です。こういう時代もあったな~~と思いつつ、軽快な文書を楽しんでいます。エッセイはエッセイ、経済評論ではないと思っているのでしょうね。
旅行記がお好きな方、こういう本もあるんだと思っていただければ、仲間が増えたようで嬉しいです。中古本ならあるようですので、ご一読くださいませ。